#3.新しいIT企画部の体制

堀下「そういえば、新しい部長の大西さんって、どんな方なんですか?」
仲山「そうそう、噂ではかなりの実力者で、しかもダンディで女性にモテモテだとか」
名間瀬「大西さんは、お父様がアメリカ人で、お母様が日本人だそうだ。若いころにアメリカに移住して、ラスベガスで育ったらしい。学生時代はカジノでバイトしていたそうだ。大学でMBAを取得して、その後は米国企業に就職したが、10年ほど前にうちのロス支店に転職してきて、その実力を買われて3年前に支店長に抜擢されたそうだ」
仲山「ニックネームがあるそうですね、確か・・・オーシャン」
名間瀬「そうそう、大西という苗字の変形らしいが、ロス支店ではオーシャンで通しているそうだ。このあいだ見た書類のサインもオーシャンになってたなぁ」
堀下「大西譲二・・・ジョージ・オーシャン。何だかハリウッド俳優みたいですね」
仲山「麻紀さん、オーシャンは独身らしいぜ」
堀下「別に、関係ないし」
名間瀬「来週、来日、いや、帰国するからな。お会いするのを、楽しみにしていよう。それはそうと、イイことを教えてやる。部長だけじゃなく、課長も新しくなるぞ」
仲山と堀下は「えっ!?」と声を揃えた。
名間瀬「オープンは明日だが、・・・俺は課長の兼務を解かれる。代わりに東北から強力な課長が赴任してくる」

サンドラフトにはIT関連の部署として、IT企画部と情報システム部がある。IT企画部はIT予算執行と開発計画の責任を有しており、サンドラフトのIT戦略の司令塔だ。一方の情報システム部はグループ会社も含めたサンドラフト全体の情報システムの開発・運用を管轄する組織だ。IT企画部には、予算計画課、生産システム課、SCMシステム課、コーポレートシステム課の4つの課がある。名間瀬、仲山、堀下はサンドラフトの物流システムを主幹するSCMシステム課に所属している。

名間瀬勝也は50歳のベテラン社員で、IT企画部の次長とSCMシステム課の課長を兼務している。かつてはエリートコースを走り抜けて経営企画部長まで上り詰めたが、当時兼務していたIT企画推進室の業務で情報漏えい事故を起こしてしまい、その責任を取って降格となった。その後、プロジェクトマネジメントの専門技術を身に付け、プロジェクトマネージャとして復活を果たし、かつての出世に貪欲な性格は鳴りを潜め、周囲からも信頼される人物として認められ、現在はIT企画部の重要なポストに就いている。

仲山英太は現在入社8年目で、今年主任に昇格したばかりだ。大学は経済学部卒で、入社後の最初の配属は営業企画部だった。5年間営業推進の企画業務を担当し、その後現在の課に異動してきた。何事にも前向きに取り組む性格の持ち主だが、時に熱情的になりすぎて暴走してしまうこともある。IT企画部で3年の経験を積んでいるがITの知識はまだまだ未熟で、名間瀬から直々に厳しいOJTを受けている。

堀下麻紀は現在入社6年目で、入社後、IT企画部・コーポレートシステム課に配属となり、社内システムインフラの運用管理を5年間担当後、SCMシステム課に部内異動した。大学は理工学部卒で勉強熱心、職場で席を並べる先輩の仲山をライバル視しており、ITのことは負けない自信を持っている。明るく活発な性格で仲山に負けない積極性を持っているが、時に繊細な一面を見せることもある。

ホテイビールとサンドラフトの業務提携は物流システムを統合しようとするものであり、SCMシステム課のミッションは物流システムの統合プロジェクトを成功裏に収めることである。実際のシステム開発は情報システム部が担当するが、統合プロジェクトのステアリングコミッティが設置されているHSロジスティクスやサンドラフトの物流現場との折衝・調整はSCMシステム課が担うことになる。第1期統合システム開発プロジェクトの時は、ステアリングコミッティがサンドラフトの物流現場と直接連絡を取り合う体制だったが、物流現場とのコミュニケーションがうまくいかずに要件変更が多発した。この反省から、第1期での関与が薄かったSCMシステム課は、要員を増強して関与度を深めるように方針転換することとなった。不買運動が終息しつつあるこの機に、新しいIT企画部長を迎えると同時に、名間瀬は部長を支える次長職に専念し、新たに物流の第一線から課長を迎え入れる。更に近々あと1名の増員が予定されおり、SCMシステム課は、少数精鋭4名の体制となる見込みだ。

思いがけない人事異動を聞いた仲山と堀下は、これから本格的に始まる第2期統合システム開発プロジェクトに大きな期待と意気込みを感じていた。
仲山「なんだか、わくわくしてきました」
堀下「私もです。サンドラフトの物流システムを新しい業務プロセスにうまく適合させて、一日も早く業務提携の成果を実感したいです」
名間瀬「ふたりとも、頼んだぞ。プロジェクトの成否はお前たちにかかっているんだからな。それじゃあ、今日はそろそろお開きとするか」

新橋駅前で名間瀬を見送った仲山と堀下は、汐留駅方向に向かって歩き出した。
仲山「麻紀さん、もう1軒行こう!決起大会ってことで」
堀下は急に左腕を仲山に掴まれて引っ張られそうになった。
堀下「ちょ、ちょっと待って・・・また今度にしようよ」
仲山「なんだよ、次長の誘いには二つ返事でOKしたくせに、親友の誘いはダメなわけ?」
堀下「うるっさいなぁ、誰が親友なのよ、手ぇ離してったら・・・」
仲山「分かった、分かった、今日はおれが奢るからさ」
仲山の手を振りほどくと、スーツの袖のしわを直して、ツカツカと歩き始める堀下の後を仲山が追う。
まだ人通りが多い駅前通りをすれ違う人々からは、仲が良さそうにじゃれ合いながら歩いているようにしか見えない二人だった。

(つづく)

シスアド達人倶楽部・山中吉明(2019/1/10)